ザ・ネクスト・ストップ・いず・こ?

人には人の乳酸菌があるように東京メトロには東京メトロのマークがある。丸の内線であればMに赤丸、銀座線ならGに橙丸てな具合で頭文字をぐるりと囲んでいる。
で、気がついた。半蔵門線は紫丸にZである。これは由々しき問題だ。俺の知る限り「半」はザ行ではない。調べてみると、Hはすでに日比谷線に取られていて、察するに生まれ年が若い半蔵門は先輩にHを譲ったのだろう。
「いや、先輩。俺にHは早いっす。半蔵門の半は半人前の半っす。いつかは全蔵門になりたいって思ってるんで、ここは自分、Zで。俄然Zで生かしてもらいますゼェー!」
こんな若い半グレみたいな話し方でHを日比谷線に譲ったのだろう。
「っーか、先輩、まじやばくないっすか?俺なんか半グレっすけど、先輩もう、全グレじゃないっすか?いっそグレーでカラーしけこんじゃいませんか?」
そんな具合で奴は日比谷先輩をHに灰丸にした。
ここまで読んだあなたならもうお分かりだろう。奴は姑息な後輩なのである。いつかは日比谷先輩を追い抜こうとしている。
他のメトロと飲むときに、こんなことを言うのだろう。
「日比谷のパイセン、真に受けちゃってさ。嬉々として鼠色。ださくね?明日からネズミ先輩って呼ぼうぜ。それに、H譲ったらさ、“英知とも読めるしなぁ”だって。何言っちゃってんのでしょ?どー考えてもエッチって読むよ。むっつりすけべの非リア先輩とも呼ぼうぜ」
まぁ、メトロ同士の飲み会があるかどうかはさておき、なんて悪いやつだ。「俺が全てを終わらせるZ〜!」と最後のアルファベットを冠に、ちゃっかり紫だなんて高僧かレディースの総長しか似合わない色を選んでいるところもずる賢い。
そんな奴のテリトリー内にある「水天宮」に私は最近通っている。
どのメトロもそうだが、それぞれの駅はナンバリングされている。銀座線の渋谷はどこか競馬の匂いのするG1、千代田線の明治神宮前はどこか「あれ、P0は?」となるC3てな具合で。察するに、現代社会のように複雑に入り組んだ東京メトロで、外国人が降りる駅を間違えないようにするためだろう。
水天宮で電車を降りるきっかけはいつも社内アナウンスがくれる。
「次は〜水天宮前〜水天宮前〜」
東京メトロはあのカイロ大卒の、卒とされている都知事のごとく、全く同じことを簡単な英語で繰り返して言う。
「ザ・ネクスト・ストップ・イズ…スィ・テン・グゥ・マェ、ズィ・テン…」
で、アナウンスは切れる。え、グゥ・マエ…は?え、グゥ・マエ…言ってないよね?え、なんで?途中で喋るの嫌になっちゃったの?聞きたいよあなたの声で。グゥ・マエ…。
いつもそんな不思議を抱えながら電車を降りていたのだけれど、今朝、人にこの話をしたら「え、あれはZ10(ズィ・テン)って言ってるんだよ」と言われた。
なんと紛らわしいことをしやがる半蔵門線め…。悪いやつだ…グゥぅぅ…おマエええ…。

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