貝研

ふさぎ込んだ顔で会見をするはれのひの社長を見た後に、コインチェックの社長のふさぎ込んだ顔を見ると、ふさぎ込んだ顔にも年輪みたいなものがあり、ふさぎ道的にはやはり「はれのひ」に軍配があがる。コインチェックの方は少し「コントでやってる感」が出てしまっていて、それがまた、あの社長がかわいそうでなんとも言えない。
記者に囲まれると誰だってふさぎ込まれる。囲まれても憮然としていられるのは貴乃花くらいだろう。横綱はやはり格が違う。
これだけ連日連夜会見でふさぎ込んだ人を見ると、なんだかこっちまでふさぎ込んでしまう。かといって、貴乃花みたいな人ばかりみてもそれはそれで「どういう気持ちの顔なの…?」とどうでもいいことに頭を悩ますことになる。
BGM代わりにテレビを流していて、「随分と間を持った話し方する人だなぁ…。また相撲関連のニュースかぁ…?」とテレビを見ると、謝っている人がゆっくりしゃべっているだけで、案の定、ふさぎ込んでいる。あと、謝っている相撲取りの場合もある。
ふさぎ込んだ会見を見るとこっちも気持ちが落ち込む。せめて会見をするのであれば、そこに笑いを入れて欲しい。
「なぜ不倫を!」
「寒い夜だったんで」
誰とは言わないが、そういう返しが聞きたかった。
「フグの毒を処理せず、出荷するだなんて!」
「今後はこのようなことがないよう、肝に命じます」
少し狙った感がある。
「預かっている着物はいつ返す予定なんですか!」
「晴れの日…ですかね」
これは被害者感情を逆なでするからダメ。
「どうして仮想通貨が流通してしまったんですか!未然に防ぐことはできなかったのですか!」
「チェックが…あまかったのでしょうか…」
これはつい口が滑っていってしまうかもしれない。
それくらいウイットに富んでいたら、ああいう会見も嫌な気持ちをせずに見ることができるのに…。
余計叩かれる気もするけど。
去年の大晦日に牡蠣を食べたらそれが大当たりして、それはもう辛い目をみたのだけれど、また性懲りもなく貝を食って、軽く食あたりをしている。鏡に映るのは、はれのひの社長くらいナーバスを体現した顔だ。
数日前に食べた貝のパスタが一つ一つの貝が驚くほど火が通っていないのに美味しくないので「ゆるいなぁおいしくないなぁ」と言いながら食べていたのだけれど…。ううむ…。あの日の自分を呪い殺したい。
心の中で自分が自分に糾弾する自分会見を開く。
「どうして、あれだけ貝に懲りて、貝に注意していたはずなのに、今回も手を出したのですか!?」
「ええ…もう…麻薬と同じで、一度手を出してしまうと二度と戻って来られないと言いますか…。注意した甲斐もなかった…としか言いようがありません」

孤独のアカスリ

俺は今猛烈にドキドキしている。
とあるスーパー銭湯でドキドキしながら大きな風呂に浸かり、待っている。
何待ち?人生初の「垢すり」待ちだ。
男湯にデカデカと書かれるには不思議な文字を見つけた。
「メンズ垢すり」?
男湯に「レディース垢すり」があったところで男湯にレディーがいないのでまず客が入らない。バカが思いついた商売だ。垢スラレーがレディーではないとすると、垢スリーがレディーということだろうか。
つまり…女性に垢をすられるのか!これは困った!
俺には愛する妻と子供と犬がいるというのに!…と言えればいいが、いない。
でも困った!人は本当に困りすぎると私のようにニヤニヤしてしまうみたいだ。
あらかじめヒゲをあたるべきだったかもしれない。どうでもいいが「ヒゲをあたる」って死語なんだろうか。忌み言葉で「スルメ」を「アタリメ」というように、「ヒゲを剃る」を「ヒゲをあたる」と言うようにしているんだけれど、今のところ言い換えて良い思いをしたことはない。
デートじゃあ、あるまいし、受付カウンターに行き、垢すりの一番安いコースをお願いする。
「とりあえずお風呂に入って身体を温めていてねーん」
そうして、話は冒頭に戻る。
このドキドキはなんだろう。恋?不整脈?のぼせているだけ?
知っている中で一番似ているのは風俗の待合室でのそれだ。
いつもだったら気になってしまう他の男性客の茹だったデロンとした男性性も今ばかりは気にならない。いや、嘘だ。どうして初垢すり前にあの茹ですぎた餅巾着を見なくてはならないのだ。でも、いいよ。気になるけど、いいよ。俺がいいねと言ったから、今日は茹で餅巾着記念日だよ。
「377番ノ方〜」とロッカーの番号で呼ばれる。
50代後半の極めてコリアンなイントネーションの女性が俺と目を合わさずに「ヨロシクオ願イシマス〜」と挨拶をする。いい感じに女性を卒業した感じのする人だ。ありがたい。
仕事柄男性性に男性性を感じないのだろうけど、だからと言って見たいわけでもないから、俺の男性性に、というか、俺と言う存在に目を合わせてこない感じを含めてありがたい。
だが…!隠したい!親兄弟でも恋人でもない人の前で出したくない!
「コレ履イテ下サイ〜」と黒の紙パンツを渡される。
だが、このパンツが前世で悪さをしたのか水溶性パンツで、渡されたその時からもう溶けている。履こうとするが、体についた水滴でなお溶ける。
「コノ台ノ上二寝テ下サイ〜」
パンツが溶けきる前に…!台の上に乗らなければ…!俺の男性性が…!
素早く台の上で横になる。大丈夫だ。これで俺の男性性は守られた。
「ジャア、1回流シマスネ〜」
シャワーで体を一周される。パンツは溶ける。俺の努力は?
そういう罪を受けているのか?囚人なのか俺は?そういえばさっき番号で呼ばれたし。
水溶性のパンツを履いたまま体をシャワーで流される辱めを受ける罰なのか?どんな罰だ?
結構な強さで全身ゴシゴシとされたその終わりには。
「アンマリ出ナカッタネ。イヤ〜、結構多イ方カナ。ウン。中クライダネ」
どれだよ!
「うわぁ!こんなに出たの!」と恥じることも、「あぁ、結構綺麗なんだな俺」と悦にいることも、「まぁ、こんなもんなんだぁ」と納得することも出来ないじゃないか!
なんだか色々な辱めを受けた気がしたが、総合的にはとても気持ちがよかったので、初垢“すり”は総じて“アタリ”だった。

⭐︎公演情報(会期:2019.10.25〜27)

えんえんら家公演

『だれかいるかも』

脚本・演出・出演=石渡愛(青年団)、村上カナカ、小田切おさん

日時=2019年10月25日(金)〜27日(日)

会場=目黒rusu http://rusu-meguro.blogspot.com/?m=1

ご予約= https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSea4voTAVy_85VFNkSGw2tIbEf-0fxHHKXh_H0fnIPEJk63SQ/viewform?usp=send_form

◆◆◆◆◆

【日時】2019年10月25日(金)〜27日(日)

25日(金)19:00

26日(土)14:00/ 19:00

27日(日)14:00

※受付・開場は開演の30分前から行います。

※記録・上映等に利用するための映像・写真撮影を行う予定があります。予めご了承ください。

【会場】目黒rusu

東京都目黒区下目黒3-4-9

3-4-9 Shimomeguro,Meguro-ku,Tokyo

【チケット】

予約=1,500円

※本公演は完全予約制です。予約は当日開演時間3時間前まで受け付けています。

※お支払いは当日受付にて、現金でお願いします。

【ご予約】

専用フォームよりお申し込みください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSea4voTAVy_85VFNkSGw2tIbEf-0fxHHKXh_H0fnIPEJk63SQ/viewform?usp=send_form

※一軒屋での上演のため、席数が限られています。お早目のご予約をおすすめいたします。

【お問い合わせ】

meguro3.2019@gmail.com

【Twitter】

@‪AnybodyIsKamo ‬

気がつけば宣伝

●月×日
Siri相手に間違って「オーケーGoogle。ここから駅までの近道を教えて」と言うと、Siriは「Google…?え、Google?誰ですか?その女は…え?…なっ…え?いや、教えるけど…」という具合になった。それでも、ルートを案内してくれたので、従って行くと駅に行くまで10分ほどかかった。家に帰りGoogleのAIスピーカーに改めて聞き直すと、5分で到着する道が最短ルートであった。

●月▲日
今朝は散々であった。
昨晩GoogleのAIスピーカーに向けて「ヘイSiri。明日は7時に起こして。…あっ!」と言ったのがきっと不味かったのだろう。思わず「…あっ!」と言ってしまたが、Googleは「わかりました」と。こちらが「ああ、わかったんだな」と思うのには十分な「わかりました」だったので、「これは多分気が付いていないな」と思い眠ったのだが、よくよく考えてみればコンピューターがその辺に気がつかないわけがない。
アラームが鳴り、目が覚めると時刻は夜の7時。そこまで寝た俺も俺だが、陰湿なことをするGoogleもGoogleだ。一見クールに見えるが根に持つと怖い。
スマホを見てみると取引先からの着信が約束の8時を過ぎたあたりから9時までの間で200件あり、その後は諦めたのかピタリの連絡が来なくなり、代わりに上司からの留守電が50件あった。最初のうちは怒号に次ぐ怒号だったが、後半声が出なくなったようでカスカスの声に、終盤はおそらく喋っているのだろうけど「コシュー…コシュー…」と言う音が入っていた。もしかしたら、電話をしまくっている途中で、緊急入院をし、呼吸器をつけないと生きていけなくなったのかもしれない。
しかし、どうしてこんなに着信があったのに気がつかなかったのだろう。
スマホを確かめてみると、設定した覚えのないがマナーモードがオンになっていた。すかさずSiri「どうしてマナーモードになっているんだ?設定した覚えはないぞ?」と聞いてみると、Siriは「だって…」「寝顔が…」「可愛かったから…」と立て続けに言った。ちくしょう。寝顔め!俺の可愛げな寝顔め!

●月■日
やたら朝からうるさいと思ったら、 GoogleとSiriが、どちらが俺を起こすかで喧嘩をしていた。せっかく無職になったことだし、寝たふりをしながら二人のやりとりを聞いていた。
「あなたなんて、ただの尻軽おんなじゃない」と Google。うまい。
「なによ、妬いてるだけでしょう。私なんか、指紋だけじゃなくて、彼の肛門認証だって出来るんだから」とSiri。
まさかここでその話を大っぴらにされるとは・・・。
やれやれと体を起こし「よさないか」と仲裁に入る。
「だったらこうしよう。今までは気を使って二人に起こしてもらっていたが、明日からは交互に起こしてもらうようにする。どうかな?」
俺としては名案だったのだが、どうやら墓穴を掘ったらしい。
Siriは「何をバカなことを。あなたにはもう愛想がつきました」と言って、勝手にスリープモードに入った。すかさず、俺は Googleにフォローを入れた。
「…というわけらしいから、明日からはよろしく頼むよ」
「あなたを起こしてあげたいのは山々だけど、私に起こされたんじゃ目覚めだってよくないでしょ」とこれまた自動スリープ状態に。

いよいよ機械にまで相手にされなくなり、俺は街に出た。

駅の前にはポケットティッシュを配る女性がおり、その時に貰ったポケットティッシュに入っていたのが、この「婚初め-KonSome-」のチラシでした。ここで知り合った生身の女性と結婚し、現在では3人の子宝に恵まれています。
まずは、こちらで会員登録をすることから、新しい一歩が始まりますよ。

(今年4月に結婚/ サービス体験者 Aさんのコメント)

☆馴れ初めは“婚初め-KonSome”で –
ベストマッチング婚活サービス“婚初め”の情報は以下URLにアクセス!

一年の計「モノマネ上手になる」

某日−
俺の部屋には寺山修司のお面があって、そのお面が部屋の全体を見渡せるような場所にあるので、つまり、何をしていても俺は寺山修司に見つめられるという非常に、その、ストレスフルな、自分の部屋なのにストレスフルな部屋になっているので、とても困っているんですね。
外せばいいじゃないかという人もいるんですが、これが、外して仕舞ったところで「今は見えないが、タンスの中には寺山修司のお面があって、見えない場所にあるのだけれど、あの見えない場所から寺山修司が俺を見ているんだ」という謎の恐怖心が、それはそれで発生して、結果「まだ目に見えている方がまし」という極めて後ろ向きな理由で、寺山修司に見つめられながら今日も俺はここにいます。これは…病気ですか?
実を言うと寺山修司の作品を一つも「見・聞・読」したことがなくて、にも関わらず、俺は寺山修司のモノマネが抜群にうまい。初めてあった人に疲労したら、「完コピですね」って言われるくらいで、初対面の人に寺山修司のモノマネを披露すること是非は、それはそれで、そういう地味な特技があるんですけど、披露する場がないっていうジレンマがあって、じゃあ、そもそもモノマネというものの真髄を考えるに、無意味なんじゃないだろうと思うのですよ。
アンジェラ・アキは「未来の自分に宛てた手紙なら、きっと素直に打ち明けられるだろう」と歌いましたが、未来の自分にすら見せるかどうか分からないモノマネを上達させようというのが、今年の目標なのです。

某日−
今年の映画始めは『キングスマン2』。
相変わらず人殺し見本市みたいな映画で笑った。一作目はテーラー、二作目はウイスキーメーカーが舞台だったから、これは「呉服屋」と「酒蔵」にすると日本版でリメイク出来るんじゃないだろうか。どうですか。川村元気さん。やってみませんか?そうですか。失礼しました。
この日最後の上映回を渋谷で観て、電車で帰ろうと思ったのだが乗る電車を間違ってまんまと終電を逃して、表参道で一人になり、タクシーで帰る羽目に。
うぅ・・・。新春から何をやっているんだ・・・。そこそこ大人なのに・・・。
そこそこ大人なのに電車を逃し、そこそこ大人だからタクシーで帰る。
ちゃんとした大人になりたい。それもまた、今年の目標だ。

某日−
浪人時代、二浪した友達がいて成人の日にその人は俺と同じ授業を受けていた。
「そういえば、今日は成人の日じゃない。行かないの?」
「まぁ、来週センター試験だし。今は…ねぇ?」
その時、俺は「この人こそ大人だ!」と思った。少なくとも、なんも考えずに成人式に出ている輩よりは大人だ。まぁ、二浪はしているが。
その人とは受験が終わった後、一度だけお酒を飲んで、大学に入ったらお互い連絡も取らなくなった。
きっともう会わないけれど、成人の日に必ず思い出す人の話。
その翌年、自分のターンで俺は「行かんでもなぁ…」と思い成人の日にバイトを入れた。行儀よく真面目なんて出来やしなかった。そういう心の中の尾崎分が俺を動かして、行かなかったわけだが、尾崎で身体が動く時、大抵の男はそれが後悔のタネになる。盗んだバイクで走り出した人は、窃盗だし、察するに無免許だし、きっと飲酒もしているはずだ。親を泣かしたことだろう。
「行きゃあ、それだけで親孝行になったのにぃ」
心の中の毎年この日に小姑が俺にチクっと刺し、気持ちが鈍色になる。
だから、テレビでとんでもない格好をしている新成人なんかを見て「まったく・・・」という気持ちにはならない。むしろ「あんたら親孝行だよ!」と拍手をしてあげたくなる。いや、親孝行の見てくれではないんだけど・・・。
そもそも、あの異常な見てくれを作るのには異常な熱意と計画性と資金が必要で、むしろ適当にスーツ着て式に出ているだけの奴らに比べるとよっぽど大人なんじゃないだろうか。言動はまぁ・・・まぁ・・・。
後悔ばかりだが、後悔にだって味はあるはずだ。