〜前回までのあらすじ〜
おそらく最初で最後の「はなまるうどん」でキスをするカップルが生まれた。
その夜のことをハゲマルドンの妻・ハルマゲドンは思い出して、連載していた雑誌のエッセイでこんな風に言っています。
”あれは私の人生で最高の時間だった。何故かって?だって、あれは私の人生で最高の時間だったから。そうね、言い換えれば、あれは私の人生で最高の時間だったしら。噛み砕いていうとね……そう!私の人生で最高の時間だった”ー『ハルマゲドンのドン詰まりでも人生は』より
「世界を終わらせる力」を持つハルマゲドンと「ただの脱毛」のハゲマルドン。
二人はしばしば「はなまるうどん」での食事を重ね、次第に愛を深めていきました。ここで言う、愛を深めるというのは、心の深度ではなく、どちらかというと体の深度の話です。
なぜか、二人はうどんを食べ終わるとキスをしました。まるで、香川県でそのような儀式があるかのように。実際にそのような儀式は香川ではありません。いや、あるかもしれません。あってもなくてもどっちでもいいです。
そう。どっちでもいいです。
公共の場です。公共の場でのキスです。二人とも名前はカタカナですが、極度の日本人です。極めて一重まぶたです。そんな二人が公共の場で口づけをするものですから、周りは軽く引いています。もっとも、村中から悪い意味で空気のように扱われている二人なので、周りの人は引きすらするものの、無視はしていました。
とはいえ、「はなまるうどん」です。利用客にファミリーは多いです。
大人は見えてはいるのですが、大人は見えていないことにしました。子供は子供でその大人の雰囲気をなんとなく嗅ぎ取って、見えていないことにしました。
ある日。
うどんを食べ終わり、儀式のようなキスをした後で、ハゲマルドンは言いました。
「毎度毎度、こうしているだろう?僕は時々、分からなくなるんだ」
「何が?」
「果たして僕は、うどんを啜っているのか、君の唇を啜っているのか」
決してギャグとかではないテンションでそのようなことを言うものですから、隣のテーブルにいたお父さんは啜ったばかりのうどんを吹き出してしまいました。
恋をしている人は概ねバカで、他人にはギャグにしか聞こえない言葉がなんだかスペシャルな意味を持つことがあります。
ハルマゲドンにとって、ハゲマルドンの言葉はそんな言葉で、その夜、ふたりの体の深度はより深くなりました。
それから、しばらくして、二人の間には子供が生まれました。
ハルマゲドンとハゲマルドン、二人の名前の間をとって「さとし」と名付けました。
何を、どう、間をとったのか。そんなことはどうでもいいのです。
そう、どうでもいいのです。
つづく